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社会福祉法人 同愛記念病院

卒後医師臨床研修における必修産婦人科研修カリキュラム初期臨床研修病院研修ガイド

後期臨床研修病院研修ガイド

はじめに

全ての医師にとり、人口の半数を占める女性の診療を行う上で産婦人科の知識が重要であるのは勿論であるが、女性の生理的、形態的、精神的特徴、あるいは特有の病態を把握しておくことは他領域の疾病に罹患した女性に対して適切に対応するためにも必要不可欠なことである。このような観点から,厚生労働省が掲げる新たな医師臨床研修制度の中に、産婦人科研修が必修研修課目として組み入れられたものと考えられるが、研修指導者も研修医もその意義を十分理解した上で研修にあたらねばならない。

研修プログラムは各々の臨床研修病院の研修管理委員会でそれぞれの施設の実情に則した独自の内容が設定されることになっており、プライマリケアにおける産科婦人科の基本的な診療能力を習得するために必要な研修目標の一つのモデルとして、以下のような産婦人科研修カリキュラムを策定した。研修期間は1ヶ月間とした。

なお、本カリキュラムは日本産科婦人科学会および日本産婦人科医会の(案)に従った。

一般目標(GIO:General Instructional Objectives)

  1. 女性特有の疾患による救急医療を研修する。
    卒後研修目標の一つに「緊急を要する病息を持つ患者の初期診療に関する臨床能力を身につける」とあり、女性特有の疾患に基づく救急医療を研修する必要がある。これらを的確に鑑別し初期治療を行うための研修を行う。
  2. 女性特有のプライマリケアを研修する。
    思春期、性成熟期、更年期の生理的、肉体的、精神的変化は女性特有のものである。女性の加齢と性周期に伴うホルモン環境の変化を理解するとともに、それらの失調に起因する諸々の疾患に関する系統的診断と治療を研修する。これら女性特有の疾患を有する患者を全人的に理解し対応する態度を学ぶことは、リプロダクティブヘルスへの配慮あるいは女性のQOL向上を目指したヘルスケア等、21世紀の医療に対する社会からの要請に応えるもので、全ての医師にとって必要不可欠のことである。
  3. 妊産褥婦ならびに新生児の医療に必要な基本知識を研修する。
    妊娠分娩と産褥期の管理ならびに新生児の医療に必要な基礎的知識とともに、育児に必要な母性とその育成を学ぶ。また妊産褥婦に対する投薬の問題、治療や検査をする上での制限等についての特殊性を理解することは全ての医師に必要不可欠なものである。

行動目標(SBO:Specific Behavioral Objectives)

1.経験すべき診察法・検査・手技

Ⅰ.基本的産婦人科診療能力

A.問診及び病歴の記載

患者との間に良いコミュニケーションを保って問診を行い、総合的かつ全人的にpatient profileをとらえることを目的とする。病歴の記載は、問題解決志向型病歴(Problem Oriented Medical Record : POMR)を作るように工夫する。

  1. 主訴
  2. 現病歴
  3. 月経歴
  4. 結婚、妊娠、分娩歴
  5. 家族歴
  6. 既往歴
B.産婦人科診察法

産婦人科診療に必要な基本的態度・技能を身につける。

  1. 視診(一般的視診および腔鏡診)
  2. 触診(外診、双合診、内診、妊婦のLeopold触診法など)
  3. 穿刺診(Douglas窩穿刺、腹腔穿刺その他)

Ⅱ.基本的産婦人科臨床検査

産婦人科診療に必要な種々の検査を実施あるいは依頼し、その結果を評価して、患者・家族にわかりやすく説明することが出来る。妊産褥婦に関しては禁忌である検査法、避けた方か望ましい検査法があることを十分に理解しなければならない。

A.婦人科内分泌検査(「経験が求められる疾患・病態」の項参照)
  1. 基礎体温表の診断
  2. 頸管粘液検査
  3. ホルモン負荷テスト
  4. 各種ホルモン検査
B.不妊検査(「経験が求められる疾患・病態」の項参照)
  1. 基礎体温表の診断
  2. 卵管疎通性検査
  3. 精液検査
C.妊娠の診断(「経験が求められる疾患・病態」の項参照)
  1. 免疫学的妊娠反応
  2. 超音波検査
D.感染症の検査(「経験が求められる疾患・病態」の項参照)
  1. 腟トリコモナス感染症検査
  2. 腟カンジダ感染症検査
E.細胞診・病理組織検査
  1. 子宮腟部細胞診※1
  2. 子宮内膜細胞診※1
  3. 病理組織生検※1
    これらはいずれも採取法も併せて経験する。
F.内視鏡検査
  1. コルポスコピー※2
  2. 腹腔鏡※2
  3. 子宮鏡※2
G.超音波検査
  1. ドプラー法※1
  2. 断層法(経腟的超音波断層法、経腹壁的超音波断層法)※1
H.放射線学的検査
  1. 骨盤単純X線検査※2
  2. 骨盤計測(入口面撮影、側面撮影:マルチウス・グースマン法)※2
  3. 子宮卵管造影法※2
  4. 腎盂造影※2
  5. 骨盤X線CT検査※2
  6. 骨盤MRI検査※2
※1
必ずしも受け持ち症例でなくともよいが、自ら実施し、結果を評価できる。
※2
できるだけ自ら経験し、その結果を評価できること、すなわち受け持ち患者の検査として診療に活用すること。

Ⅲ.基本的治療法

薬物の作用、副作用、相互作用について理解し、薬物治療(抗菌薬、副腎皮質ステロイド薬、解熱薬、麻薬を含む)ができる
ここでは特に妊産褥婦ならびに新生児に対する投薬の問題、治療をする上での制限等について学ばなければならない。薬剤の殆どの添付文書には催奇形性の有無、妊産褥婦への投薬時の注意等が記載されており、薬剤の胎児への影響を無視した投薬は許されない。胎児の器官形成と臨界期、薬剤の投与の可否、投与量等に関する特殊性を理解することは全ての医師に必要不可欠なことである。

A.処方箋の発行
  1. 薬剤の選択と薬用量
  2. 投与上の安全性
B.注射の施行
  1. 皮内、皮下、筋肉、静脈、中心静脈
  2. 副作用の評価ならびに対応
  3. 催奇形性についての知識

2.経験すべき症状・病態・疾患

研修の最大の目的は、患者の呈する症状と身体所見、簡単な検査所見に基づいた鑑別診断、初期治療を的確に行う能力を獲得することにある。

Ⅰ.頻度の高い症状

  1. A.腹痛※3
  2. B.腰痛※3
※3
自ら経験、すなわち自ら診療し、鑑別診断してレポートを提出する。
産婦人科特有の疾患に基づく腹痛・腰痛が数多く存在するので、産婦人科の研修においてそれら病態を理解するよう努め経験しなければならない。これらの症状を呈する産婦人科疾患には以下のようなものがある。
子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜炎、子宮傍結合組織炎、子宮留血症、子宮留膿症、月経困難症、子宮付属器炎、卵管留水症、卵管留膿症、卵巣子宮内膜症、卵巣過剰刺激症候群、排卵痛、骨盤腹膜炎、骨盤子宮内膜症があり、さらに妊娠に関連するものとして切迫流早産、常位胎盤早期剥離、切迫子宮破裂、陣痛などが知られている。

Ⅱ.緊急を要する症状・病態

  1. A.急性腹症※4
  2. B.流・早産および正期産
    産婦人科研修でしか経験できない経験目標項目である。
※4
自ら経験、すなわち初期治療に参加すること。
産婦人科疾患による急性腹症の種類はきわめて多い。「緊急を要する疾患を持つ患者の初期診療に関する臨床的能力を身につける」ことは最も大きい卒後研修目標の一つである。女性特有の疾患による急性腹症を救急医療として研修することは必須であり、産婦人科の研修においてそれら病態を的確に鑑別し初期治療を行える能力を獲得しなければならない。急性腹症を呈する産婦人科関連疾患には子宮外妊娠、卵巣腫瘍茎捻転、卵巣出血などがある。

Ⅲ.経験が求められる疾患・病態(理解しなければならない基本的知識を含む)

A.産科関係
  1. 妊娠・分娩・産褥ならびに新生児の生理の理解
  2. 妊娠の検査・診断※5
  3. 正常妊婦の外来管理※5
  4. 正常分娩第1期ならびに第2期の管理※5
  5. 正常頭位分娩における児の娩出前後の管理※5
  6. 正常産褥の管理※5
  7. 正常新生児の管理※5
  8. 腹式帝王切開術の経験※6
  9. 流・早産の管理※6
  10. 産科出血に対する応急処置法の理解※7

産婦人科研修が1ヶ月間の場合の到達目標は下記のようになる。

※5
4例以上を外来診療もしくは受け持ち医として経験し、うち1例については症例レポートを提出する。
※6
1例以上を受け持ち医として経験する。
※7
自ら経験、すなわち初期治療に参加すること。レポートを作成し知識を整理する。
B.婦人科関係
  1. 骨盤内の解剖の理解
  2. 視床下部・下垂体・卵巣系の内分泌調節系の理解
  3. 婦人科良性腫瘍の診断ならびに治療計画の立案※8
  4. 婦人科良性腫瘍の手術への第2助手としての参加※8
  5. 婦人科悪性腫瘍の早期診断法の理解(見学)※9
  6. 婦人科悪性腫瘍の手術への参加の経験※9
  7. 婦人科悪性腫瘍の集学的治療の理解(見学)※9
  8. 不妊症・内分泌疾患患者の外来における検査と治療計画の立案※9
  9. 婦人科性器感染症の検査・診断・治療計画の立案※9

産婦人科研修が1ヶ月間の場合の到達目標は下記のようになる。

※8
子宮の良性疾患ならびに卵巣の良性疾患のそれぞれについて受け持ち医として1例以上を経験し、それらのうちの1例についてレポートを作成し提出する。
C.その他
  1. 産婦人科診療に関わる倫理的問題の理解
  2. 母体保護法関連法規の理解
  3. 家族計画の理解

3.産婦人科研修項目(経験すべき症状・病態・疾患)の経験優先順位
産婦人科研修が1ヶ月の場合

A.産科関係

経験優先順位第1位(最優先)項目
  • 妊娠の検査・診断
  • 正常妊婦の外来管理
  • 正常分娩第1期ならびに第2期の管理
  • 正常頭位分娩における児の娩出前後の管理
  • 正常産褥の管理
  • 正常新生児の管理
    • 外来診療もしくは受け持ち医として4例以上を経験し、そのうち1例の正常分娩経過については症例レポートを提出する。
    • 必要な検査、すなわち超音波検査、放射線学的検査等については(できるだけ)自ら実施し、受け持ちの患者の検査として診療に活用する。
経験優先順位第2位項目
  • 腹式帝王切開術の経験
  • 流・早産の管理
    • 受け持ち患者に症例があれば積極的に経験する。それぞれ1例以上。
経験優先順位第3位項目
  • 産科出血に対する応急処置法の理解
  • 産科を受診した腹痛、腰痛を呈する患者、急性腹症の患者の管理
    • 症例として経験する機会、また当面したとしても受け持ち医になるか否かは極めて不確実ではあるが、機会があれば積極的に初期治療に参加し、できるだけレポートにまとめたい。

B.婦人科関係

経験優先順位第1位(最優先)項目
  • 婦人科良性腫瘍の診断ならびに治療計画の立案
  • 婦人科良性腫瘍の手術への第2助手としての参加
    • 外来診療もしくは受け持ち医として、子宮の良性疾患ならびに卵巣の良性疾患のそれぞれを1例以上経験し、それらのうち1例についてレポートを作成し提出する。
    • 必要な検査、すなわち細胞診・病理組織検査、超音波検査、放射線学的検査、内視鏡的検査等については(できるだけ)自ら実施し、受け持ち患者の検査として診療に活用する。
経験優先順位第2位項目
  • 婦人科性器感染症の検査・診断・治療計画の立案
    • 1例以上を外来診療で経験する。
経験優先順位第3位項目
  • 婦人科悪性腫瘍の早期診断法の理解(見学)
  • 婦人科悪性腫瘍の手術への参加の経験
  • 婦人科悪性腫瘍の集学的治療の理解(見学)
  • 婦人科を受診した腹痛、腰痛を呈する患者、急性腹症の患者の管理
  • 不妊症・内分泌疾患患者の外来における受持ち患者に症例があり、かつ時間的余裕のある場合は積極的に参加したい。

4.産婦人科研修項目(経験すべき症状・病態・疾患)と「臨床研修の到達目標」との対応
「産婦人科の研修項目を経験することにより到達することが望まれる目標を列挙した」臨床研修の到達目標

A.基本的な身体診察法

  • 全身の観察ができ、記載できる。
  • 腹部の診察ができ、記載できる。
  • 骨盤内診察ができ、記載できる。
  • 泌尿・生殖器の診察ができ、記載できる。

B.基本的な臨床検査

  • 一般尿検査(妊娠反応を含む)
  • 血算・白血球分画
  • 血液型判定・公叉適合試験
  • 血液生化学的検査
  • 心電図、負荷心電図
  • 細菌学的検査・薬剤感受性検査
  • 超音波検査
  • 単純X線検査
  • 精神面の診察ができ、記載できる。

C.基本的手技

  • 注射法を実施できる。
  • 採血法を実施できる。
  • 導尿法を実施できる。
  • 輸液ができる。
  • 輸血による効果と副作用について理解し、輸血が実施できる。
  • 内視鏡検査

D.基本的治療法

  • 療養指導ができる。
  • 薬物の作用、副作用、交互作用について理解し、薬物治療ができる。
  • 創部消毒とガーゼ交換を実施できる。
  • 簡単な切開・排膿を実施できる。
  • 皮膚縫合法を実施できる。
  • 人工呼吸を実施できる。
  • ドレーン・チューブ類の管理ができる。
  • 胃管の挿入と管理ができる。

E.医療記録

  • 診療録を適切に記載し管理できる
  • 診断書、死亡診断書、その他の証明書を作成し、管理できる。
  • 紹介状と、紹介状への返信を作成でき、それを管理できる。
  • CPCレポートを作成し、症例呈示できる。

F.態別研修目標

  • 妊娠の検査・診断
  • 正常妊婦の外来管理
  • 正常分娩第1期ならびに第2期の管理
  • 正常頭位分娩における児の娩出前後の管理
  • 正常産褥の管理
  • 正常新生児の管理
  • 腹式帝王切開術の経験
  • 流・早産の管理
  • 産科出血に対する応急処置法の理解
  • 産科を受診した腹痛、腰痛を呈する患者、急性腹症の患者の管理
  • 婦人科良性腫瘍の診断ならびに治療計画の立案
  • 婦人科良性腫瘍の手術への第2助手として参加
  • 婦人科性器感染症の検査・診断・治療計画の立案
  • 婦人科悪性腫瘍の早期診断法の理解(見学)
  • 婦人科悪性腫瘍の手術への参加の経験
  • 婦人科悪性腫瘍の集学的治療の理解(見学)
  • 婦人科を受診した腹痛、腰痛を呈する患者、急性腹症の患者の管理
  • 不妊症・内分泌疾患患者の外来における検査と治療計画の立案

研修スケジュール

研修システム

  1. 5年以上の産婦人科臨床経験を有する日本産科婦人学会認定産婦人科専門医が指導にあたる。
  2. 原則として、マン・ツー・マンで指導する。部長が統括責任指導医となる。
  3. 研修期間には、外来研修日を設定し、それ以外は病棟・分娩・手術研修を行う。産科研修と婦人科研修は分けない。
  4. 産婦人科研修配属の研修医をそれぞれの主治医グループに研修医を配属させ、病棟ならびに外来の診療にあたらせる。
  5. 原則として、指導医の下週1回の当直(副当直)を当てる。
  6. 緊急時には呼び出しがかかる。

週間スケジュール

※横にスクロールできます。

  月曜日 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日 土曜日
9:00~ 産科外来 手術 産科外来 手術 病棟 病棟
13:00~ 病棟 手術 病棟 手術 不妊・更年期 外来  
13:30
部長回診
  副当直 16:00
抄読会