当科の特徴
- 基本情報
- 当科の特徴
新しく「呼吸器・腫瘍センター」を開設し、呼吸器外科と呼吸器内科が緊密に連携して患者さんを総合的に診断し、入院患者さんは同一病棟を使用して治療しています。
定期的なカンファレンスは、外科と内科の医師がお互いの立場から常に議論し、患者さんに対してより適切な治療方針を提示できるよう検討しています。
このように外科内科が連携した体制をとって診療を行っている施設は少なく、患者さんの情報交換がすぐに行われるため、手術のリスクや問題点などを共有することができ、安全な呼吸器外科手術に繋がっています。
呼吸器外科手術
2022年8月から稼働開始となった最新の機器を備えた新手術室において2023年7月から呼吸器外科手術を開始しています。
当院で行う手術は患者さんにとって低侵襲な完全胸腔鏡下手術を基本としています。また、最近の臨床試験で報告されているように、肺を温存出来る病状の方については可能な限り肺切除量を少なくするよう努めています。
外来、病棟、リハビリテーション等多くのスタッフの方々と協力し、早期離床・退院を目標に周術期管理に取り組んでいます。
術前術後の補助化学療法に関しては、呼吸器内科と共同で行います。
当院で肺がん手術をお受けになられた多くの患者さんの年齢は80歳を超えており、高齢の患者さんでも手術は安全に行われています。
手術室スタッフ
胸腔鏡手術スタッフトレーニング
完全胸腔鏡下手術
開胸手術
完全胸腔鏡下肺葉切除術
ほとんどの手術は胸腔鏡を用いて行われています。
胸腔鏡下手術の創
閉創後
胸腔鏡下に摘出された肺葉
開胸手術
進行肺がんには開胸手術も行います。肋骨を切って大きく胸を開きます。
開胸創
術後
肺切除の術式
- 部分切除
- 末梢(表面)に近い部位の肺を一部分楔状に切除します。自然気胸、嚢胞、良性腫瘍、炎症疾患などが主に適応になります。低肺機能、高齢者で小型の肺がんの場合も適応になります。
- 区域切除術
- 右肺は上葉、中葉、下葉の3葉、左肺は上葉、下葉の2葉でできてますが、各肺葉は数個の区域に分けられます。病変の存在する区域を1~2個切除する方法です。2㎝以下のサイズの小型肺がんにおいて今後標準的な術式になってくると考えられますが、区域によっては手術が複雑になってきます。切除断端にがんが残り、局所再発するリスクが少し高いとされています。低肺機能、高齢者で小型の肺がんの場合も適応になります。
- 肺葉切除術
- 肺がんで一般的に行われている手術です。病変の存在する肺葉全体を切除する術式で、肺がんの場合にはリンパ節郭清も行われます。2㎝を超えるサイズの肺がんでは標準的な手術です。
- 肺全摘術
- 病変が肺門部にまで及ぶときに行われます。片肺全体を切除するため、呼吸機能の低下が大きいため、呼吸機能の悪い場合には施行できません。現在は、できるだけ肺全摘は避ける方針が一般的です。
- 気管支形成術
- 葉気管支入口部などに腫瘍が浸潤している場合には、肺葉切除では切除部位に腫瘍が残ってしまうことになります。この場合、入口を含めた中枢の気管支とともに袖状に肺葉を切除する必要があります。このような術式をスリーブ肺葉切除術といいます。
肺がんの手術
肺がんは、日本人のがん死亡数の1位を占める疾患です。組織型には、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん、小細胞がんなどの神経内分泌腫瘍に大きく4つに分けられます。発生部位により、中枢の気管支に発生する肺門部のがん(中心型)と肺の末梢に発生する肺野のがん(末梢型)に分けられます。扁平上皮がんや小細胞がんは肺門に、腺がんや大細胞がんは肺野に発生しやすいとされています。現在は腺がんが70~80%と発生率が高い傾向にあります。
手術できる症例は臨床病期I~ⅢA期までです。手術症例の90%はI~II期でⅢA期だと術前後の補助化学療法が必要になります。咳嗽、血痰、胸痛、呼吸困難などの症状がある場合には、既にがんが進行していて手術ができないことが多いです。肺がんは予後の悪い病気なので早期に発見することが重要になります。検診などを積極的に受けるようにしてください。胸部レントゲン写真で異常を指摘された場合には、胸部CT検査や気管支鏡検査をお受け下さい。
手術方法には、片肺全部を切除する肺全摘術、肺葉を摘出する肺葉切除術(スリーブ肺葉切除)、肺区域を切除する区域切除、肺の一部のみを楔状に切除する肺部分切除が行われます。一般的にリンパ節郭清を追加します。2㎝以下の小型の肺がんの場合でリンパ節転移のない方、呼吸機能が悪い方、または高齢者には、縮小手術の区域切除や部分切除を行うこともあります。現在では低侵襲な胸腔鏡を用いて手術する方法が主流で、当院でもほとんどの症例を胸腔鏡下に手術しています。
肺がんの原因は主にタバコの喫煙によるものです。喫煙者は呼吸機能も悪く術後に痰の貯留が多くなり肺炎などの合併症を起こすため、術前は最低でも1ヵ月の禁煙期間が必要です。
自然気胸の手術
自然気胸は、肺に発生するブラやブレブなどの肺嚢胞が破綻することにより、空気が胸腔内にたまり肺の虚脱が起きる病態で、呼吸困難や胸痛などの症状を呈します。20歳前後の若年者に多く発症します。中高年者では、喫煙による肺気腫から気胸を起こすことがあります。女性には、異所性子宮内膜症によって引き起こされる月経随伴性気胸があります。気胸の手術は、原因となっている空気漏れのある肺嚢胞を胸腔鏡下に自動縫合器を用いて正常肺を含めて部分切除します.
自動縫合器を用いた完全胸腔鏡下肺嚢胞切除術
縦隔腫瘍の手術
縦隔とは左右の肺に挟まれている部位で、心臓、気管、食道など重要な臓器が存在する部位のことです。縦隔にできる腫瘍を総称して縦隔腫瘍と呼びます。縦隔は、上縦隔、前縦隔、中縦隔、後縦隔に分けられます。代表的な腫瘍として、上縦隔には異所性甲状腺腫瘍、前縦隔には胸腺腫、中縦隔にはリンパ腫、気管支嚢胞、心膜嚢胞、後縦隔には神経原性腫瘍などが挙げられます。前縦隔の大きな腫瘍は胸骨正中切開で摘出しますが、小型の腫瘍は胸腔鏡下に摘出します。
胸骨正中切開
肺に浸潤した大きな胸腺腫の手術
呼吸器外科手術の変遷と将来
呼吸器外科手術の術式は日々進化しており、将来的には更に低侵襲な手術術式が開発されていきます。私たちは安全で低侵襲な手技に心掛けて手術に取り組んでいます。
気管支鏡下治療(気道インターベンション)
中枢気道の気管・気管支の病変や異物などのトラブルにも麻酔科の先生方の協力のもとに対応しています。都内でも対応可能な専門施設は少ないのが現状です。
気管・気管支の中枢気道狭窄・閉塞で重篤な呼吸困難を伴う患者さんに対しては、アルゴンプラズマコアグレーター(APC)、マイクロウェーブ、クライオ、高出力レーザーなど各種内視鏡的治療機器を用いて気道を拡張して呼吸困難を改善させ、患者さんの生活の質(QOL)改善に努めています。また、気道確保に不可欠な硬性気管支鏡を用いた各種気道ステント留置術も積極的に行っています。
中枢の太い気管支にできた早期の肺がんに対しては、副作用の少ない腫瘍選択性光感受性物質であるレザフィリンいう薬剤と低出力レーザーを用いた低侵襲な光線力学的治療法(photodynamic therapy: PDT)を軟性気管支鏡下に行うことにより、外科手術を回避することも検討しています。
当科で施行できる内視鏡的治療手技
- アルゴンプラズマ凝固療法
- Argon Plasma Coagulator (APC)を用いて、腫瘍や肉芽を焼灼します。止血にも有効で安全性に優れています。APCでは側方の病変も焼灼可能、40%以下の酸素濃度下で施行する必要があります。
- マイクロ波凝固療法
- 気管支内の腫瘍をマイクロ波で凝固します(Microwave Coagulation Therapy: MCT)。電子レンジと同じ原理で、水分子の摩擦熱を利用しています。止血しながら凝固できる特徴があり、100%酸素濃度下でも施行可能であるため、高度気道狭窄にも対応できます。
- レーザー焼灼術
- 高出力レーザーを用い、気管支内の腫瘍や肉芽を焼灼します。高熱が発生し発火の危険性があるため、35%以下の酸素濃度下で施行する必要があります。他の機器の開発により最近の使用頻度は低いです。
- 高周波スネア(ポリペクトミー)
- 気管支内にできたポリープ状腫瘍にスネアループを掛けて絞扼しながら電気で切除します。
- クライオ(凍結療法)
- クライオは、気管支鏡のチャンネルを通したクライオプローブを用いて、腫瘍組織を凍結させて腫瘍を摘出する手技です。圧縮された二酸化炭素がプローブに流れることで先端が冷凍され、冷凍したプローブを接触させることで肺組織を凍結させプローブに付着した凍結組織を摘出します。ジュール・トムソン効果を原理としています。100%酸素濃度下でも施行可能であるため、高度気道狭窄にも対応できます。
- 硬性気管支鏡下治療
- 気管や主気管支の病変に有用です。硬性気管支鏡管を気管内に挿入しテレスコープで観察しながら処置を行います。硬性鏡管を用いて腫瘍を削ったり(debulking)、くり貫いたり(core out)でき、処置を迅速に行うことが可能です。気道ステント留置や異物摘出にも有用です。
- ステント留置術
- 気管や気管支の中枢気道に発生した腫瘍による狭窄や閉塞に対し、呼吸困難の改善を目的として気道ステントを留置します。金属ステントやハイブリッドステントは軟性気管支鏡下でも留置可能です。Dumonステントなどのシリコンステントは硬性気管支鏡下に留置します。T-チューブは気管切開孔から留置します。
- 気管支塞栓術
- 手術困難な難治性気胸などに対して、EWS (Endobronchial Watanabe Spigot)を用いて気管支を閉塞し空気漏れを止める手技です。
- 気管支異物摘出
- 誤嚥した気管支内の色々な異物を、各種鉗子を用いて摘出します。軟性気管支鏡で摘出困難な異物の場合でも硬性気管支鏡を用いると摘出可能となり、開胸手術による摘出を避けることができます。
- 光線力学的治療法(photodynamic therapy: PDT)
- 気管支鏡的に確認できる太い気管支に発生した早期肺がんが適応になります。腫瘍選択的光感受性物質(レザフィリン)を投与後4時間目に低出力のダイオードレーザー(664nmの赤い光)を病巣に照射します。このレーザーは低出力であるため熱を発生しません。レーザーのエネルギーをもらった光感受性物質が光化学反応をおこし、活性酸素(一重項酸素)を発生し、この活性酸素が局所で腫瘍を破壊します。光感受性物質の唯一の副作用として皮膚日光過敏症が知られていますが、レザフィリンは従来の光感受性物質に比較し非常に早く皮膚日光過敏性が消失します。
中枢気道病変に用いられる内視鏡的手技
硬性気管支鏡下手術
硬性気管支鏡セット
各種鉗子、処置具
硬性気管支鏡のセッティング
各種気道ステント
ステント留置後、呼吸困難が劇的に改善しました。
光線力学的治療法(PDT)
主な対象疾患
原発性肺がん、転移性肺腫瘍、縦隔腫瘍、重症筋無力症、気胸 (原発性自然気胸、月経随伴性気胸、続発性気胸等)、巨大肺嚢胞症、嚢胞性肺疾患 (LAM、BHD症候群など)、炎症性肺疾患 (肺化膿症、膿胸、縦隔炎など)、肺良性腫瘍、胸壁腫瘍、悪性胸膜中皮腫・胸膜腫瘍、等。
関連学会
日本外科学会、日本胸部外科学会、日本呼吸器外科学会、日本肺癌学会、日本呼吸器内視鏡学会、日本内視鏡外科学会、日本気管食道科学会、日本臨床細胞学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本レーザー医学会、日本光線力学学会