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社会福祉法人 同愛記念病院

内科臨床研修プログラム初期臨床研修病院研修ガイド

後期臨床研修病院研修ガイド

一般目標

臨床医としてコモンディジーズを含め、様々な病態や疾患に対して適切なプライマリケアができるように、各内科領域における基本姿勢、臨床能力を身につける。

行動目標

  1. 患者を身体だけでなく心理、社会面からも理解して、全人的医療ができるようにする。
  2. 患者に行われる医療が患者自身だけでなく、家族にも納得ができるように説明でき、信頼関係の構築につとめる。
  3. 医療面接が適切に行え、病歴の聴取と記録ができ、医療上の守秘義務を守れる。
  4. 医療を行ううえで保健、医療、福祉など幅広い職種と協力できる。
  5. 患者診療上の問題を把握し、Evidence based medicineを理解したうえで問題に対応できる。
  6. 生涯にわたる自己学習をみにつける。
  7. 患者ならびに医療従事者にとって安全な医療ができるようにつとめる。
  8. 症例呈示、医師の間での意見交換を活発に行い、研究会、学会に積極的に参加する。
  9. 保健、医療、福祉など総合的な視野のもとに診療計画を作成し、評価する。
  10. 治療のガイドラインやクリニカルパスを理解し、活用できる。
  11. リハビリ、社会復帰、在宅医療、介護の適応、患者の入退院の判断、診療計画が適切に行える。
  12. 保健医療、法規、医療保険、公費負担医療、医の倫理、生命倫理を理解し、適切に行動できる。

循環器内科研修目標

経験目標

1.基本的な身体診察法

聴診
心音、心雑音、呼吸音を的確に聴取することができる。
身体所見
浮腫、肝腫大、血管怒張、チアノーゼの有無などを適切に診察できる。
血圧測定
正確に血圧測定ができる。

2.基本的な臨床検査、手技

胸部X-P
心拡大、欝血の有無などの所見が取れ、心不全、弁膜症などの診断ができる。
心電図
正常心電図を判定できる。異常心電図(リズム、波形、電位所見など)を診断し、鑑別疾患ができる。
心エコー
正常と異常との判定ができ、エコー診断が行える。基本的な心エコーを描出できる。
負荷心電図
トレッドミル、マスター負荷心電図検査を危険なく施行でき、結果の判定ができる。
核医学検査
エルゴメーター、薬物負荷心筋シンチ検査を危険なく施行でき、結果の判定ができる。
ホルター心電図
結果の解釈ができる。
生化学、血液検査
データーの解析、診断ができる。
心臓カテーテル検査
左心カテの補助ができ、右心カテをひとりで施行できる。所見の診断を行える。
心臓電気生理検査
電極カテーテルの留置を施行でき、基本的な心内電位の解釈が行える。
救急処置
電気除細動、心肺蘇生法、一時的心臓ペーシング、心膜穿刺などを行うことができる。

3.経験すべき症状、病態、疾患

A.頻度の高い症状
  • 胸痛、胸部不快感
  • 呼吸困難
  • 動悸
  • 浮腫
  • めまい、ふらつき、失神
B.緊急を要する症状、病態
  • 心原性ショック
  • 起坐呼吸、チアノーゼ
  • 失神発作、高度徐脈
  • 持続性胸痛―不安定狭心症、心筋梗塞などが疑われる病態
  • 頻拍状態
  • CPA
C.経験が求められる症状、病態
  1. 経験が必須であると考えられる疾患、病態
    • 心不全:右心不全、左心不全
    • 虚血性心疾患:狭心症、心筋梗塞
    • 不整脈―頻脈性:心房粗動、心房細動、心室性頻拍、心室細動、発作性上室性頻拍、期外収縮
    • 徐脈性:房室ブロック、洞不全症候群
  2. 経験するのが望ましい疾患、病態
    • 血圧異常:本態性高血圧、二次性高血圧(腎性、内分泌性)、低血圧
    • 弁膜疾患:僧帽弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症
    • 大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症
    • 三尖弁閉鎖不全症
    • 僧帽弁逸脱症候群
    • 心筋疾患:心筋炎
    • 心筋症―肥大型心筋症、拡張型心筋症
    • 心膜疾患:急性心膜炎、収縮性心膜炎
    • 心内膜疾患:感染性心内膜炎
    • 肺疾患:肺塞栓症、慢性肺性心
    • 先天性心血管奇形:心房中隔欠損症、心室中隔欠損症、動脈管開存症、肺動脈狭窄症、Fallot四徴症、大動脈縮窄症
    • 大動脈疾患:大動脈りゅう、大動脈解離
    • 脳梗塞、脳出血:末梢動脈疾患、急性動脈閉塞症
    • 静脈疾患:血栓性静脈炎、静脈りゅう、上大静脈症候群
    • 全身疾患に伴う心血管異常:甲状腺機能こう進症、甲状腺機能低下症、糖尿病、膠原病、腎不全、血液疾患

消化器内科

経験目標

1.経験すべき診察法・検査・手技

(1)医療面接
  1. 医療面接におけるコミュニケーションの持つ意義を理解し、コミュニケーションスキルを身に付け、患者の解釈モデル、受診動機、受療行動を把握できる。
  2. 患者の病歴(主訴、現病歴、既往歴、家族歴、生活・職業歴、系統的レビュー)の聴取と記録ができる。
  3. 患者・家族への適切な指示、指導ができる。
(2)基本的な身体診察法

病態の正確な把握ができるよう、全身にわたる身体診察を系統的に実施し、記載できる。その中で、腹部診察(直腸診を含む)ができ、記載できる。

(3)基本的な臨床検査

病態と臨床経過を把握し、医療面接と身体診察から得られた情報をもとに、必要な検査の適応が判断でき、結果の解釈ができる。
※「経験」とは受持ち患者の検査として診療に活用すること。[A]自ら実施し結果を解釈できる。

  1. 血算・白血球分画、[A]動脈血ガス分析、血液生化学的検査(肝炎ウイルスマーカー、腫瘍マーカーを含む)、尿検査、糞便検査
  2. [A]腹部超音波検査
  3. 単純X線検査、腹部CT検査、腹部MRI検査、上・下部消化管造影X線検査
  4. 上・下部消化管内視鏡検査、胆管・膵管造影検査、超音波内視鏡検査
  5. 血管造影検査
  6. 細胞診・病理組織検査(肝生検を含む)
(4)基本的手技

消化器内科領域の基本的手技の適応を決定し、実施する。

  1. 採血法(静脈血、動脈血)を実施できる。
  2. 穿刺法(腹腔)を実施できる。
  3. ドレーン・チューブ類の管理ができる。
  4. 胃管の挿入と管理ができる。

以下の発展的手技・治療の周術期管理を実施できる。

  1. 食道静脈瘤に対する硬化療法・結紮術
  2. 出血性消化管潰瘍に対する止血術
  3. 早期胃・大腸癌に対する内視鏡的切除術
  4. 経皮的胃瘻造設術
  5. 肝癌に対するラジオ波焼灼術・エタノール注入療法・肝動脈塞栓術
  6. 閉塞性黄疸に対する胆道ドレナージ術
  7. 悪性狭窄に対するステント挿入術
  8. 薬物療法(抗癌剤投与を含む)

2.経験すべき症状・病態・疾患

研修の最大の目的は、患者の呈する症状と身体所見、簡単な検査所見に基づいた鑑別診断、初期治療を的確に行う能力を獲得することにある。以下に、腹部・消化器関連の症状・病態・疾患を挙げるが、初期臨床研修到達目標はあくまで、全身の系統的な症状・病態を把握することにある。(下線)必修項目:自ら診療し、鑑別診断を行い、初期治療に参加すること。

(1)頻度の高い症状
  • 全身倦怠感
  • 食欲不振
  • 体重減少
  • 黄疸
  • 嘔気・嘔吐
  • 胸やけ
  • 腹痛
  • 便通異常(下痢、便秘)
(2)頻度の高い症状
  • 緊急を要する症状
  • 急性腹症
  • 急性消化管出血(吐血、下血)
(3)経験が求められる疾患・病態
[A疾患]
入院患者を受け持ち、診断、検査、治療方針について病歴要約を作成すること。
[B疾患]
外来診療又は受け持ち入院患者(合併症含む)で自ら経験すること。
  • A. 食道・胃・十二指腸疾患(食道静脈瘤、胃癌、消化性潰瘍、胃・十二指腸炎)
  • B. 小腸・大腸疾患(イレウス、急性虫垂炎)
  • B. 肝疾患(ウイルス性肝炎、急性・慢性肝炎、肝硬変、肝癌、アルコール性肝障害、薬物性肝障害)
  • B. 胆嚢・胆管疾患(胆石症、胆嚢炎、胆管炎)
  • B. 膵臓疾患(急性・慢性膵炎)
  • B. 横隔膜・腹壁・腹膜(腹膜炎、急性腹症、ヘルニア)

腎臓疾患の到達目標

経験目標

1.経験すべき診察法・検査・手技

A.基本的な身体診察法
  1. 病歴聴取(主訴、現病歴、既往歴、家族歴、生活・職業歴)と記載
  2. 頭頚部、胸部、腹部の診察に加え腎臓部診察と記載
B.基本的な身体診察法
  1. 一般検尿、血算、血液生化学、血液ガスに加え腎機能検査(クレアチニンクリアランス、フィッシュバーグ濃縮試験、など)
  2. 超音波検査
  3. CT検査
  4. 腎生検
C.基本的手技
  1. 導尿法
  2. 注射法(皮内、皮下、筋肉、点滴、末梢静脈確保、中心静脈確保)
  3. 採血法(静脈血、動脈血)
D.基本的治療法
  1. 安静度、食事療法(塩分制限、蛋白制限など)の指導
  2. 薬物治療法(副腎皮質ステロイドのパルス療法・大量漸減療法など)
  3. 輸液療法(各種電解質濃度輸液の作製も含めて)
  4. 急性期透析療法(除水療法、血液透析)

2.経験すべき症状・病態・疾患

A.頻度の高い症状
  1. 浮腫<
  2. 血尿
  3. 排尿障害
  4. 尿量異常
B.緊急を要する症状・病態
  1. 無尿、乏尿、尿閉
  2. 急性腎不全
C.経験が求められる疾患・病態
  1. 原発性糸球体疾患(急性・慢性糸球体腎炎症候群、ネフローゼ症候群)
  2. 全身性疾患による腎障害(糖尿病性腎症など)
  3. 急性・慢性腎不全

糖尿病・代謝内科

一般目標

糖尿病・代謝疾患・肥満の管理に対する基本方針を学ぶ。

行動目標

  1. 糖尿病・代謝疾患の診断基準を理解し、診断できる。
  2. 糖尿病・代謝疾患治療の目標を言える。
  3. 糖負荷試験、尿中および血中CPR、HbA1c値の検査値の評価ができる。
  4. 1型及び2型、その他の型の糖尿病の区別がつけられる。
  5. 患者様のインスリン依存度、インスリン抵抗性の程度を臨床データから推定できる。
  6. 合併症(心、脳、腎、眼、神経、末梢動脈)の存在診断とその重症度を評価できる。
  7. 糖尿病の食事療法と運動療法を適切に指示できる。
  8. 経口血糖降下剤の適応、特徴、禁忌を言える。
  9. 各種インスリン製剤の薬理学的特徴を言える。
  10. 高脂血症・高尿酸血症の食事及び薬物療法ができる。
  11. 高脂血症・高尿酸血症につき各々の治療薬の適応、特徴を言える。
  12. 糖尿病における各種緊急症(意識障害等)の鑑別と初期治療ができる。
  13. 周術期、妊娠など特殊な状況における血糖管理の注意点を説明できる。
  14. 高齢者糖尿病の管理上の注意点が説明できる。
  15. 低血糖に対する対処法が説明できる。
  16. メタボリックシンドロームの診断基準と、適切な生活習慣指導が説明できる。

経験すべき疾患

  1. 糖尿病(1型・2型・妊娠糖尿病・二次性糖尿病)
  2. 低血糖症
  3. 高血糖緊急症(糖尿病ケトアシドーシス、高血糖高浸透圧症候群)
  4. 痛風・高尿酸血症
  5. 肥満・病的肥満・メタボリックシンドローム

内分泌内科

一般目標

内分泌疾患の管理に対する基本方針を学ぶ。

行動目標

  1. 内分泌疾患について、各々の診断基準が言える。
  2. 精神状態、自律神経系の神経学的所見をはじめ全身的な所見をとり、異常を判断できる。
  3. 各種負荷試験の持つ意味、危険性が分かる。
  4. 画像診断検査(単純X線検査、CT・MRI検査、超音波検査等)の適応を選択し、依頼することができる。
  5. ホルモン補充療法の基礎につき理解し、治療ができる。
  6. 内分泌疾患における各種緊急症の鑑別と初期治療ができる。
  7. 内分泌疾患による二次性高血圧や電解質異常を診断できる。

経験すべき疾患

1.下垂体前葉疾患
  1. 高プロラクチン血症(プロラクチン産生腫瘍を含む)
  2. 先端巨大症
  3. クッシング病
  4. 下垂体機能低下症
2.下垂体後葉疾患
  1. SIADH症候群
  2. 尿崩症
3.甲状腺疾患
  1. バセドウ病
  2. 粘液水腫
  3. 慢性甲状腺炎
  4. 亜急性甲状腺炎
  5. 甲状腺腫瘍
4.副甲状腺疾患
  1. 副甲状腺機能亢進症
    原発性、続発性
  2. 副甲状腺機能低下症
5.副腎皮質
  1. クッシング症候群
  2. アルドステロン症
    原発性、続発性
  3. アジソン病
6.副腎髄質ならびに交感神経系
  1. 褐色細胞腫

神経内科

1.神経学的診察・検査法

一般目標

神経学的診察手段に習熟するとともに、特殊検査の意義を理解できる。

行動目標

  1. 精神状態、脳神経・脊髄神経・自律神経系、錐体路・錐体外路系の神経学的所見をとり、異常を判断できる。
  2. 腰椎穿刺を行ない、結果を解釈できる。
  3. 画像診断検査(単純X線検査、CT・MRI検査)の適応を選択し、依頼することができる。
  4. 筋電図・誘発筋電図・神経伝導検査・脳波検査の適応を選択し、依頼することができる。
  5. 神経・筋生検の適応を選択し、依頼することができる。

2.診断

一般目標

基本的な治療法の適応を選択し、実施できる。

行動目標

  1. 脳浮腫に対して、高浸透圧溶液や副腎皮質ホルモンを適切に使用することができる。
  2. 痙攣・不穏に対して、適切な鎮静ができる。
  3. 頭痛・神経痛などに対して、鎮痛薬を選択し、使用できる。
  4. 脳梗塞に対して、抗血小板薬・血栓溶解薬・抗擬血薬を選択し、使用できる。
  5. 細菌性髄膜炎の診断と抗生物質療法ができる。
  6. 脳循環・代謝改善薬の選択、使用ができる。
  7. 抗パーキンソン病薬の種類や用法を理解できる。
  8. 抗てんかん薬の適切な使用ができる。
  9. リハビリテーションの適応を理解し、依頼することができる。
  10. 放射線治療の適応を理解し、依頼することができる。
  11. 脳外科的・整形外科的手術の適応を理解し、依頼することができる。
  12. 精神科的・心身医学的治療の適応を理解し、依頼することができる

経験すべき疾患

  1. 高血圧性脳内出血
  2. くも膜下出血(脳動脈瘤、脳動静脈奇形)
  3. 脳梗塞
  4. 髄膜炎(細菌性あるいはウイルス性)
  5. 脳動脈硬化症
  6. メニエール症候群
  7. 偏頭痛
  8. パーキンソン症候群
  9. てんかん
  10. 過換気症候群
  11. 硬膜下血腫
  12. 高血圧性脳症
  13. 脳腫瘍
  14. 脳膿瘍
  15. ヘルペス脳炎
  16. 日本脳炎
  17. 多発性神経炎
  18. 重症筋無力症
  19. 進行性筋ジストロフィー
  20. 周期性四肢麻痺
  21. 多発性硬化症
  22. 初老期痴呆

血液内科

経験目標

1.経験すべき診察法、検査、手技

1.基本的な診察法

皮膚の色調、結膜などを見て貧血、多血症を区別できる。紫斑をみて出血傾向を理解できる。
リンパ節腫大を診察して圧痛の有無、硬さなどから悪性、反応性の予想ができる。
腹部を触診して肝脾腫の有無がわかる。

2.臨床検査法、手技

採血、骨髄穿刺法、腰椎穿刺法などが安全に適切に行える。末梢血、骨髄の血液像から疾患を診断できる。 造血細胞の細胞表面マーカー、染色体検査が理解できる。白血球減少、増加をみて血液像を参考に鑑別診断ができる。
輸血療法に関連した検査が理解できる。貧血、多血をみて網状赤血球、MCV、MCHC、鉄代謝などから背景にある疾患を推測できる。
血小板減少、増加をみて自己抗体形成の有無なども参考に鑑別診断ができる。
血液凝固検査から凝固、線溶がわかり、背景にある疾患を診断できる。
M蛋白の有無、LDH値、可溶性IL2レセプター値など血液生化学、血清検査の結果が理解できる。X線、MRI、CT、核医学検査などの画像をみて疾患やその広がりがわかる。
リンパ節など生検の病理組織像を理解できる。

2.経験すべき症状、疾患、治療

1.頻度の高い症状

貧血による動悸、息切れ、易疲労感、多血による色素沈着や臓器の腫大、血小板減少などによる出血症状、多血や血小板増加などに伴う血栓塞栓症状、白血病や悪性リンパ腫によるリンパ節や臓器の腫大など。

2.疾患、治療

貧血や血小板減少を有する患者への注意点、輸血療法、多血や血小板増加に伴う抗血小板療法や瀉血、白血球減少時の易感染性、免疫不全状態における抗生剤、G-CSFなどを使用した対処法や無菌室医療、播種性血管内凝固症候群などにおける抗凝固療法、血友病など先天性血液凝固疾患の凝固因子補充療法、骨髄異形成症候群、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫の診断、治療などを経験する。
下記疾患については入院患者を受け持ち、疾患およびその治療方針を理解したうえで病歴要約を作成すること。
鉄欠乏性貧血、悪性貧血、血友病、播種性血管内凝固症候群、自己免疫性血小板減少症、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄異形性症候群、白血病、慢性骨髄増殖性疾患。

アレルギー呼吸器科

はじめに

呼吸器は常に大気と接触しており、体外に存在する病原体、種々の抗原、あるいはタバコの煙をはじめとする有害粉塵・有害気体の脅威に曝されている。したがって、呼吸器では絶え間なくこれらの外敵に対する防御反応、すなわち免疫反応が活発に展開されている。これらの防御機能が破綻すれば、感染症を発症し、また悪性腫瘍が増殖する原因となる。一方、免疫反応が過剰に起これば気管支喘息などのアレルギー性疾患や、過敏性肺臓炎などの免疫機序性疾患を来す。種々の膠原病に呼吸器病変(膠原病肺)が高頻度に合併することもよく知られている。
このように、呼吸器を対象臓器とした研修は内科分野の中でも感染症、悪性腫瘍、アレルギー性疾患を診療する頻度が高く、抗菌薬や抗腫瘍薬、ステロイド薬の使用を習熟するのに適しており、将来内科を専攻しない研修医にとっても必要不可欠な普遍的知識を得ることができる。
また、周知のように本邦は先進諸国の中できわだって喫煙率の高い国であり、肺癌が悪性腫瘍の死亡率の第1位を占め、しかも年々増加を続けている。残念ながら、肺癌の予後はいまだ不良であり、診断時からbest supportive careを選択するしかないケースが少なくない。したがって、呼吸器研修においてはターミナル・ケアも重要な課題となる。予後の限られた患者さんに敬虔な気持ちで接し、患者さんに何がしてあげられるか、真摯に考えて取り組む態度を身につけて欲しい。
なお、当科はアレルギー診療では全国でも有数の施設であり、気管支喘息の患者さんが非常に多い。短期間の研修であっても、この疾患がいかにバラエティに富む病態であるか知ってもらうことができるであろう。気管支喘息は急患室で遭遇することの非常に多い病態であり、救急医療を学ぶ上でも当科研修は有用である。
また、最近マスコミで注目されているが実際に診療している施設は少ない睡眠時無呼吸症候群にも取り組んでおり、この病態を学ぶチャンスも得られる。伝統的に膠原病の患者さんも多く、膠原病の診断と治療も研修できる。
当科には日本呼吸器学会、日本アレルギー学会、日本呼吸器内視鏡学会の指導医が常勤しており、それぞれの専門教育施設に認定され、研修の指導に当たっている。また、日本感染症学会(2007年より専門教育施設制度施行予定)の 専門医・指導医、Infection Control Doctor (ICD) も常勤で指導に当たっている。

呼吸器疾患診療の到達目標

経験目標

1.経験すべき診察法・検査・手技
  1. 基本的身体的診察法
    • 病歴聴取(主訴、現病歴、既往歴、家族歴、喫煙歴、職業歴、居住歴、旅行歴など)
    • 視診(身体表面所見、胸郭変形、太鼓ばち指、頸静脈怒脹など)、呼吸状態の把握
    • 胸背部打聴診・頸部聴診
    • 喀痰の性状観察(身体所見ではないが極めて簡便であり、多くの情報が得られる
  2. 基本的な臨床検査の解釈・判断
    • 胸部X線(単純)
    • 血液ガス(酸塩基平衡、呼吸不全)
    • 血算(特に白血球分画)、生化学(特に電解質平衡、SIADH、高Ca血症等)
    • 呼吸機能検査
    • 喀痰検査(細菌、抗酸菌、細胞診)
    • 胸部CT
    • 抗原・抗体検査(血液、尿、喀痰など)
  3. 基本的手技
    • 静脈路確保(末梢静脈、中心静脈)
    • 静脈採血、動脈採血
    • 気道確保(エアウェイ)、気管内挿管
    • 注射法(静脈内、点滴、皮下、皮内、筋肉内)
    • 皮内反応、ツベルクリン・テスト
  4. 発展的手技・検査
    • 気管支鏡(TBB, TBLB, BAL含む)
    • 胸腔穿刺・ドレナージ(気胸、胸水)
    • 経皮肺生検(エコー下、透視下、CTガイド下)
    • 胸膜生検
    • 胸部断層X線
    • 肺血管造影(肺動脈、気管支動脈)
    • 気道過敏性検査
    • 睡眠時無呼吸症候群検査(ポリソムノグラフィー)
  5. 基本的治療法
    • 抗菌薬(抗真菌薬、抗ウイルス薬を含む)の選択
    • 酸素療法(経鼻、マスク)
    • ステロイド療法(吸入、経口、点滴、パルス)
    • 種々の吸入療法(気管支拡張薬、去痰薬;ネブライザー、MDIなど)
    • 抗癌剤の使用と副作用対策
    • 鎮痛療法(非ステロイド消炎鎮痛剤、麻薬の使い方)
    • 理学療法(体位変換、タッピングなど)
    • 胸腔ドレナージ(気胸、胸水)
    • 用手人工呼吸
    • 人工呼吸器管理(気管内挿管による)
    • ターミナル・ケア
    • 結核治療
  6. 発展的治療法
    • 気管支洗浄 (Bronchial toiletting)
    • 非侵襲的人工呼吸器管理(BiPAP、CPAP)
    • 抗癌剤の局所投与
    • 気管切開管理
    • 気道内異物摘出
    • 禁煙指導
    • 呼吸リハビリテーション
2.経験すべき症状・病態・疾患
  1. 頻度の高い症状・病態
    • 発熱(基本的に以下の病態を伴う)
    • 咳嗽(急性、遷延性)
    • 喀痰増加(膿性、非膿性)
    • 血痰、喀血
    • 呼吸困難(急性、慢性;発作性、持続性)
    • 労作時息切れ
    • 胸痛、背部痛
    • 気胸
    • 胸水
    • 誤嚥
    • 胸部異常陰影
    • 体重減少、易疲労、るいそう
  2. 緊急を要する症状・病態
    • 呼吸停止、心肺停止
    • 窒息(誤嚥によるケースが多い)
    • 喉頭浮腫
    • 気管・気管支痙攣
    • 大量喀血
  3. 経験が求められる病態・疾患
    1. 経験が必須である病態・疾患
      1. 気道感染症(急性上気道炎、インフルエンザ、肺炎、気管支炎、肺膿瘍、膿胸など)
      2. 気管支喘息(BA)
      3. 慢性閉塞性肺疾患(COPD:肺気腫 PE、慢性気管支炎 CB)
      4. 気管支拡張症(BE)、び漫性汎細気管支炎(DPB)、副鼻腔気管支症候群(SBS)
      5. 肺癌
      6. 間質性肺炎
      7. 自然気胸
      8. 胸膜炎
      9. 急性呼吸不全
      10. 慢性呼吸不全
      11. 肺性心
      12. 過換気症候群
      13. 無気肺
    2. 経験することが望ましい病態・疾患
      1. 誤嚥性肺炎
      2. 膠原病肺
      3. 過敏性肺臓炎
      4. サルコイドーシス
      5. BOOP
      6. 好酸球性肺炎(急性 AEP、慢性 CEP)
      7. アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)
      8. 肺真菌症
      9. 肺結核、気管・気管支結核、粟粒結核
      10. 縦隔腫瘍
      11. 胸膜腫瘍
      12. 転移性肺腫瘍
      13. 良性肺腫瘍
      14. 肺梗塞、肺塞栓
      15. 肺動静脈瘻
      16. 肺分画症
      17. 肺高血圧
      18. 肺水腫
      19. 気道内異物
      20. 睡眠時無呼吸症候群

アレルギー・免疫機序性疾患、膠原病(リウマチ性疾患)診療の到達目標
(呼吸器診療と共通するものは原則として省略する)

経験目標

経験すべき診察法・検査・手技
  1. 基本的身体的診察法
    • 病歴聴取(アレルギー疾患の既往歴・家族歴、特に薬物アレルギーの既往は重要)
    • 視診(皮膚症状、関節症状、眼症状、脱毛など)
    • 徒手筋力テスト
  2. 基本的な臨床検査の解釈・判断
    • 血算(特に好酸球、リンパ球)
    • 血清グロブリン分画
    • IgE抗体 (総抗体価、特異抗体価)
    • 免疫学的検査:リウマチ因子、抗核抗体その他種々の抗体、 補体、免疫複合体
    • 血清生化学:LDH, CPK, Aldoraseなど
    • 関節X線(手指、手首、肘、膝、頸部など)
    • 皮膚試験
  3. 基本的手技 呼吸器診療に共通
  4. 発展的手技・検査
    • 誘発試験、負荷試験
    • 筋電図
    • 食道・胃透視
    • リンパ球サブセット
    • リンパ球刺激試験
    • HLA
    • 皮膚生検(皮膚科依頼)
    • 筋生検(外科・整形外科依頼)
    • Shimer試験、ローズベンガル試験(眼科依頼)
    • 唾液腺造影、口唇生検(皮膚科依頼)
  5. 基本的治療法
    • ステロイド療法(経口、点滴、パルス、吸入)
    • 抗アレルギー薬
    • 抗ヒスタミン薬
    • 非ステロイド消炎鎮痛薬(NASAID)
    • 抗リウマチ薬(DMARD)
    • 免疫抑制薬
    • 免疫変調療法
    • 理学療法、リハビリテーション
    • 循環改善薬
  6. 発展的治療法
    • 減感作療法
    • 金療法
    • 生物学的製剤
2.経験すべき症状・病態・疾患
  1. 頻度の高い症状・病態
    • 皮膚症状(発疹、そう痒、ヘリオトロープ疹など)
    • 関節症状(関節痛、関節腫脹、関節変形、朝のこわばりなど)
    • 筋症状(筋肉痛、脱力など)
    • 消化器症状(嚥下困難、誤嚥、腹満、下痢など)
    • 呼吸器症状(労作時息切れ、呼吸困難、乾性咳嗽など)
    • 鼻症状(くしゃみ、鼻水、鼻閉)
    • 眼症状(流涙、そう痒、充血、ドライアイなど)
    • 体重減少、易疲労、るいそう
    • 脱毛
  2. 緊急を要する症状・病態
    • アナフィラキシー・ショック
    • 急性呼吸不全
    • 敗血症
  3. 経験が求められる病態・疾患
    1. アレルギー性機序が主体と考えられる病態
      1. 気管支喘息
      2. アナフィラキシー
      3. 薬物アレルギー
      4. 食物アレルギー
      5. 蕁麻疹、血管性浮腫
      6. アレルギー性鼻炎
      7. アトピー性皮膚炎
      8. アレルギー性気管支肺アスペルギルス症 (ABPA)
      9. Churg-Strauss症候群(アレルギー性肉芽腫性血管炎)
      10. 好酸球増多症候群(HES)
      11. 過敏性肺臓炎
      12. 好酸球性肺炎
      13. 好酸球性胃腸炎
      14. Loffler症候群
      15. 木村病
    2. 膠原病(リウマチ性疾患)として扱われる病態
      1. 慢性関節リウマチ(RA)
      2. 全身性エリテマトーデス(SLE)
      3. 強皮症(PSS)
      4. 皮膚筋炎・多発筋炎(PM/DM)
      5. 結節性多発動脈炎(PN)
      6. 混合性結合組織病(MCTD)
      7. シェーグレン症候群(SjS)
      8. 大動脈炎症候群
      9. 側頭動脈炎
      10. リウマチ性多発筋痛(PMR)
      11. ベーチェット病
    3. 膠原病の類縁疾患
      1. Wegener肉芽腫症
      2. サルコイドーシス
      3. ANCA関連血管炎症候群